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第8回 思い焦がれた夢2013年06月04日
この試合、初回に川戸の先制弾から3点を先取したHondaは、7、8回にも効果的に加点し、6対3で鷺宮製作所に勝利した。先発の筑川も7回まで好投をみせた。
これで、筑川の“予感”通り、Hondaは流れを掴んだ。3回戦の三菱重工神戸戦では、筑川から須田(JFE東日本‐横浜DeNA)のリレーで、5対4で競り勝ち。その後も、準々決勝の東芝に4対2、準決勝のNTT東日本に3対2と勝ち進んでいく。
「前年は、都市対抗の準決勝で負けたので、準決勝が鬼門の印象もあったんですけど、でもやっぱり、この年は負ける気はしなかったんですよね。苦しみながらもNTT東日本に勝つことが出来た。その帰りのバスで、また長野が、ポロッと僕に言ったんですよ。
『西郷さんは都市対抗の決勝戦で、これまで一回も負けたことがないらしいですよ。利希也さんも、高校と大学では全国大会の決勝まで行ってどっちも勝ってるでしょ。だから、明日は勝てますよ』って(笑)」
その日の決勝戦前夜のことは、筑川は今でもハッキリと覚えている。
「決勝戦前なのに、夜遅くまでみんなで語って、睡眠も少ししか取らずに試合に臨んだんですよね。というのも、1回戦の時に、そうやって試合に入って勝つことが出来たので、それが、僕たちのゲン担ぎになってたんです。苦しみながらも、みんなで一つになって、プレーできた大会でした」
決勝戦の相手は、トヨタ自動車。先発は、筑川と同じく、高校野球センバツ優勝投手の大谷智久(千葉ロッテ)だった。
筑川は回想する。
「確かに、トヨタは強いチームだと思っていましたけど、ここでも負ける気はしなかったんです。相手が僕を打ち崩すために対策をしてきたなら、『じゃあ、僕はこう投げるんだ』という裏を欠くイメージは、試合前から持っていましたから」
Hondaは3回に、二死一、二塁の場面から、2番川戸の二塁適時打で先制。続くチャンスで、長野が中前打を放ち2点を追加。3対0と試合をリードする。筑川は、4回まで無安打投球をみせるも、5回にトヨタの藤原に2ランを浴びる。それでも、後続を抑え、試合の流れを譲らない。
その後、Hondaは9回に多幡のダメ押しのソロ本塁打で4対2と突き放す。その裏、8回から抑えでマウンドに上がった須田がトヨタ打線を無得点に抑え、Hondaが13年ぶり2度目の都市対抗優勝を決めた。試合直後のヒーローインタビューで筑川は大観衆の前で答えた。
「安藤監督を日本一の男にしたかった」――
筑川が入社以来、ずっと思い焦がれた夢がひとつ、叶えられた瞬間だった。
閉会式では、大会MVPに値する黒獅子賞を筑川は受賞した。都市対抗、ファイナリストの舞台で、最も輝くスポットライトが当たる場所に、筑川利希也は立っていた。大学4年次、故障明けすぐで、まだ投げられない自分に迷わず声を掛けてくれた安藤監督への恩返しが出来たことが、何より嬉しかった。
再び返り咲いたヒーローの姿に、スタンドからは大きな拍手が鳴り響いた。
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