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日本生命vsトヨタ自動車
全力疾走vs好球必打の名勝負!延長12回、4番・高橋の一打で勝負を決した日本生命
この一戦は名勝負だった。どんな戦いだったか簡単に言えば、全力疾走(トヨタ自動車)vs好球必打(日本生命)だった。
私が俊足だと思う打者走者の各塁到達は「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達11秒未満」。これをクリアしたのは日本生命の5人10回に対して、トヨタ自動車は9人16回。この「9人16回」は今年見た中で最も多かった。「5人10回」も上位の数字だが、トヨタ自動車の足攻が凄すぎた。
好球必打に関しては見逃し率で見ていこう。全投球に占めるストライクを見逃した割合が見逃し率である。15パーセント以内なら好球必打の傾向があると言ってよく、これがトヨタ自動車の約16パーセントに対して日本生命は約13パーセント。この数字は日本生命のファーストストライク狙いとそのときのフルスイングをみごとに物語っている。
ヒット打ったときのボールカウントを次に紹介しよう(ボール―ストライク)。
◇ 1回=伊藤 悠人0-2
◇ 3回=伊藤0-1
◇ 6回=高橋 英嗣0-0、廣本 拓也1-2
◇ 7回=山本 真也0-1、上西 主起0-1、古川 昌平0-0
◇10回=古川1-1
◇12回=高橋0-2
9本の安打のうち3球以内の勝負が8回あり、初球打ちが2回もあった。この積極的なバッティングが最も光を浴びたのは2対2でもつれ込んだ延長12回の攻撃シーンのときだろう。タイブレークが採用され、局面はいきなり1死満塁で打席には4番の高橋 英嗣が立つ。相手投手はこの試合でストレートが最速152キロを計測し、投げる球のほとんどが140キロ台後半という本格派右腕の上杉 芳貴。
高橋は1、2球の快速球を空振り、ファールでボールカウントを0ボール2ストライクとし、あとがなくなる。このカウントでは当てにくるのが普通の感覚だと思うが、高橋は抜けたスライダーに対して体勢を崩しながらも何とか上から叩こうとした。打つ形は不格好だが、打球はレフト線を破る二塁打になり2人が生還した。
話は変わるが、この前の試合では東芝がNTT西日本に敗れ、関東勢のベスト8進出がゼロになっている。これは過去86回中、初めてのことだ。全力疾走に注目すると、東芝のタイムクリアはごく平均的な3人4回。私が見た関東勢のタイムクリアはJX-ENEOSだけが5人11回と標準以上で、富士重工業、Honda、セガサミーが3人5回、日立製作所が3人6回とごく平均的だった。
勝ち慣れからくるマンネリズムがチームを覆っているとしか思えないタイムの羅列。適度な全力疾走と適度な積極打法――これくらい一生懸命やればいいんでしょうと勝手に線引きをし、その狭苦しい囲いの中でプレーしている、そんな印象である。
日本生命対トヨタ自動車に話を戻そう。この試合で光ったのは攻撃面だけではない。ドラフト的な視点なら、敗れたトヨタ自動車のバッテリー、上杉 芳貴投手と木下 拓哉捕手が最大の注目選手だろう。
木下がイニング間の二塁送球で見せたこの日の最速タイムは1.87秒。私が計測したほとんどが1.8~1.9秒台で、6回の2死一、三塁で仕掛けられたダブルスチールのときには素早い二塁送球を見せ、誘い出された三塁走者を本塁で刺殺している。このクラスの強肩は社会人ではNTT西日本の戸柱 恭孝くらいしか見当たらず、私の中ではドラフト上位候補に位置している。
上杉は今年中に27歳になる年齢がネックになると思っていたが、この日の投球を見て3位くらいの指名があるかもしれないと思うようになった。最大の長所はストレートの速さ。最速152キロで、ストレートの多くは140キロ台後半を計測。この日と同じように短いニングならプロでも十分やっていけると思った。
(文=小関 順二)
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日本生命 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 4 | |||
トヨタ自動車 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 |
日本生命: 佐川、藤井貴―椎名、古川
トヨタ自動車:佐竹、宇田川、上杉―木下
本塁打:木下(ト)
二塁打:高橋(日)、辰巳(ト)
◎タイブレーク(12回1アウト満塁から)