【目次】
［1］初のドイツ人メジャーリーガーが誕生！
［2］ドイツ野球の今後の発展に期待！

　パリ支局・池永大輔です。先日ネットでヨーロッパ野球の情報を調べていると、5月の頭からヨーロッパの各都市でMLBが主催するトライアウトツアーが開催されることを知り、さらに私が以前プレーしていたドイツのマインツでも開催されるということで、5月7日(火)のトライアウトに合わせて取材に行ってきました。
　このMLBのヨーロッパでのトライアウトツアーは、MLBがどれだけヨーロッパの野球に力を入れているのかを知る良い機会になると思い、以前から見てみたいと思っていました。また先日、MLBのシンシナティー・レッズに所属するドイツ人のドナルド・ルーツ選手(24歳)がドイツ人として初めてメジャーリーグに昇格した直後のドイツでのトライアウトという非常に良いタイミングだったので、これはドイツ野球の変革期という観点でも見逃せないと思い、時間が迫っている中でパリからお隣の国ドイツへ飛ぶことを決めました。

MLB・シンシナティ・レッズに所属するドナルド・ルーツ選手

　まず最初に前述したドナルド・ルーツ選手のプロフィールを紹介させていただきます。ドナルド選手は、実は私がマインツを本拠地とするマインツ・アスレチックスに所属していた2006年に、まだ野球を始めて1年くらいが経過した頃のドナルド選手とはよく顔を合わせていました。それは彼のお兄さんのドイツ代表のサーシャ・ルーツ選手がその年にマインツ・アスレチックスでプレーしており、また、サーシャ選手が私のキャッチボール相手だったということもあって、弟のドナルド選手もよくマインツに来て練習をしていました。

　私は当時、ドナルド選手が野球を始めて1年ということを知り、1年でこんなにも上達するのかと感心したことはよく覚えていますが、まさかメジャーリーグでプレーする日が来るとは想像もしていませんでした。実際はお兄さんのサーシャ選手の実力の方に私は非常に驚かされていて、サーシャ選手がドイツだけでプレーするのはもったいないなと感じていたくらいです。当時のドナルド選手は、16歳でしたが、すでに身長も185cmくらいあり、投手としても非常に速い球を投げ、打者としても遠くに飛ばす能力には長けていた印象はありますが、まだ野球を始めて1年ということで荒削りな部分が多々あったことは覚えています。

　私は2006年にマインツでプレーした翌年は、アメリカの独立リーグでプレーをしていたので、その後のドナルド選手に関してはしばらく情報が入らない状況でしたが、ドナルド選手は2007年にドイツ1部リーグの強豪レーゲンスブルク・レギオネーレというチームに所属し、そこでの活躍が認められてMLBのシンシナティー・レッズとマイナー契約を結んだそうです。前年の2006年当時は、お兄さんのサーシャ選手に付いてマインツに練習に来ていましたが、実際2006年は当時ドイツの2部リーグのチームであった、バッド・ホンブルグ・ホーネッツでプレーしていたそうで、その際に日本人の方と一緒にプレーをしていました。その日本人の方に当時のドナルド選手についてのエピソードを伺ったのですが、当時のドナルド選手は、温厚で人の話をよく聞く選手だったそうです。

　ヨーロッパでは、私が現在関わっているフランス野球でもそうですが、非常に個としての我が強く、我がままで、1部リーグでプレーするようになるとプレー中に噛みタバコを頬張ったり、メジャーリーグの選手のような振る舞いをする選手も多々います。しかし、ドナルド選手は非常に謙虚で技術的なアドバイスにはよく耳を傾ける選手だったようです。それが今に繋がっているのは間違いないということです。私自身も昨年、フランス代表のコーチとして出場したオランダのロッテルダムで開催されたヨーロッパ選手権の会場で、ドナルド選手に6年ぶりくらいに会ったのですが、話してみても非常に落ち着いている好青年という印象は、2006年当時と全く変わっていませんでした。彼がドイツの2部リーグでプレーしていた際には、試合中に相手チームと一触即発のような雰囲気になったときは、「こっちのチームにはドナルドがいるからな」と、相手チームに脅威を与えていたそうですが、実際はドナルド選手本人が乱闘に加わるようなそんな気持ちは一切なかったそうです。そんなところにも彼の性格が垣間見ることができますね。

　彼のメジャー昇格には周りの方々のサポートやタイミングなどの運も味方したこともあるとは思いますが、彼自身の努力や、エピソードにもあった野球に対する真摯な姿勢が彼をメジャーリーグという大舞台に引き上げてくれたのだと思っています。私もほんの少し彼に係わり合いがあった者として彼の成功を非常に喜んでいます。