石田雄太の斜説

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第8回 ポスティング・システムの渦巻き2014年01月07日

 それにしても、この新システム、選手にとってはおいしい話だ。
 とりわけ”超大物”(だって、24勝0敗ですよ)にとっては、いいことずくめだろう。

 旧システムでは、交渉できるのは落札した一球団だけだった。当然、落札したMLB球団は競争相手がいないため、足元を見てくる。一方の代理人も、切り札は「日本に戻るぞ」という一手だけ。お互いがそんな強気の姿勢を貫こうという素振りを見せた途端、不幸な結果をもたらしたこともあった(岩隈 久志とアスレチックス、中島 裕之とヤンキースがそうだった)。結局、交渉相手が一球団ということは、その選手のメジャー移籍の実現をどこまで前提とするか否かで決まるような側面があった。MLB球団と代理人(じつは選手というよりも代理人の思惑が影響を及ぼすケースが多い)がどこまで譲り合うかという、いわば善意に頼るしかない交渉をしなければならなかったのである。

 しかし、公示された移籍金を支払う意志のある全球団と交渉できる新システムでは、代理人の立場は圧倒的に強くなる。よくぞ、このシステムをMLBの金満球団が受け容れたと思うほど、選手との交渉は難しくなるだろう。ただ、裏を返せば、新システムによって市場に出てくる日本人選手は”移籍金付きのFA選手”のようなもので、FA選手との交渉はMLB球団には日常の光景でもある。つまりはそれだけ、入札金が青天井となる旧システムが、MLB球団にとっても負担だったということなのかもしれない(そりゃ、メディアに1億ドルなんて煽られたら、余計なプレッシャーになるだけだ)。

 その分、選手の選択肢は増えることになる。足元を見られることなく、求める条件をじっくり煮詰めることも可能だ。本拠地の場所なのか、優勝を狙える球団なのか、ローテーションもしくはレギュラーの保証なのか、年俸の金額なのか、ノートレードやマイナー行きを制約するなどの付帯条件なのか。要求するのは自分のことだけではない。通訳をつけさせる、トレーナーの帯同を認めさせる、家族の住環境を負担させる、日米の往復はファーストクラス、遠征先のホテルではスイートルームを用意させる……いやはや、至れり尽くせりである。おそらく、”超大物”(だって24勝0敗なんて聞いたことがないんだから)ならば、そうした条件を認めさせることは容易なのだと思う。

 メジャーでは、ローテーションを務めるピッチャーに支払う年俸の相場は、1勝につき100万ドル(約1億円)だと言われている。つまり、10勝を計算できるピッチャーには10億円を支払うことは不思議でもなんでもない。実際、20勝を計算できるとは思えない昔の名前で出ています的な面々にも、平気で2000万ドル(約20億円)を越える年俸を支払っているし、このオフ、新たにヤンキースと契約を交わした黒田 博樹に支払う1600万ドルという年俸も、15勝を期待できるローテーション投手ならば特別な金額ではない(10勝以上を計算されていたはずのダルビッシュの年俸が1000万ドル、約10億円だったのは、旧システムが一球団としか交渉できなかったことも影響している)。移籍金として支払う2000万ドルなど、本気になったメジャーの金満球団にとっては、端数と言っても過言ではない額なのだ。

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