第2回 投手がゴロを打たせることのメリットとリスク2014年06月07日

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【目次】
[1] 広島躍進を支える投手陣の強み / ゴロは投手にとってなぜ安全か
[2] 「ゴロを打たせること」と「ゴロがアウトになること」は別の話 / 奪三振能力の威力
[3] 三振は〈ギャンブル〉を減らす

3.「ゴロを打たせること」と「ゴロがアウトになること」は別の話

 ゴロを打たせる投球は、安打を打たれ失点する危険性を下げる。それは事実だ。
 ただ、気をつけなければいけないのは、投手の力量が及ぶのは、ゴロという打球を打たせるところまで、という点だ。
 ここがややこしいのだが、ゴロを打たせることに長けた投手だからといって、打たせたゴロが他の投手よりも高い確率でアウトになるわけではないという点に注意しなければいけない。

 能力が選手由来のものかどうかは、2年間の個人成績の変動というデータを必要量集め、その関係を調べることで探ることができる。
【参考 出塁率は打者の能力以外に左右されにくい
 この分析を行うと、ゴロを多く打たせている投手はシーズンをまたいでもその傾向をキープしやすく、フライを打たれている投手はそこから脱せないことが多いという結果が出る。すなわち、どんな打球を打たせているかという傾向には、投手の能力が反映されていると言える。
 でも、投手が打たせた打球がアウトになった割合で同じ分析を行うと、シーズンをまたいで継続性は見られない。毎年ゴロを打たせ続けられる投手はいるが、そのゴロがちゃんとアウトになるかは、年によってランダムに変動する。打たせた打球がアウトになるかは、味方の守備の技術や、打球がどこに飛んだかといった運の要素の影響を受けている。投手の能力とは別の要因も大きく関わって決まっているのだ。

 ゴロを打たせて獲ったアウトが、何が作用して記録されたかを正確にとらえようとすれば、
・ 安全な打球を打たせることでヒットになる確率を下げた(投手の働き)
・ 打球を処理した(野手の働き)
・ 運

 という3要素について考えなければいけない。繰り返しになるが、ゴロが凡打になっている事実は、投手の能力がそのまま表れた結果ではない。


4. 奪三振能力の威力

 打たせた打球がアウトになるかどうかは、投手はコントロールできない。打球を打たせてしまった時点で、その後記録される結果は、投手の手を離れたところにいってしまうという話をした。
 この事実が改めて教えてくれるのは、三振を奪う能力の重要性だ。次のような例を挙げて、このことを考えてみる。

【投手A】
9イニングで10個の三振で奪える能力がある。打たれた打球はすべてゴロになる投手

【投手B】
9イニングで5個の三振で奪える能力がある。打たれた打球はすべてゴロになる投手

【投手C】
9イニングで5個の三振で奪える能力がある。打たれた打球はすべて外野フライになる投手

 この3人が1試合を投げきる=27個のアウトを獲るまでに打たれるヒットの本数を考えてみよう。

 投手Aは10個のアウトを三振で奪えるので、残り17個をゴロで奪えばよい。2013年のデータを参考にすると、ゴロがアウトになる確率は約77%。
 0.23:0.77(ゴロがヒットになる割合:アウトになる割合)

 X:17(ヒット数:アウト数)
が同じ比率になればいい。これを計算するとX=5.08…となり、投手Aは平均5本程度のヒットを打たれる計算になる。四球の数にもよるが、完封も視野に入ってきそうな投球だ。
 投手Bは5個のアウトを三振で奪えるので、残り22個をゴロで奪えばよい。
 0.23:0.77(ゴロがヒットになる割合:アウトになる割合)

 X:22(ヒット数:アウト数)
が同じ比率になればいい。これを計算するとX=6.57…となり、投手Bは平均6〜7本ヒットを打たれる計算になる。やはり四球の数次第だが、好投と平均的なピッチングの境目あたりの内容だろうか。
 投手Cも5個のアウトを三振で奪えるので、残り22個のアウトを、今度は外野フライで奪うことになる。外野フライがアウトになる確率は約63%。
 0.37:0.63(外野フライがヒットになる割合:アウトになる割合)

 X:22(ヒット数:アウト数)
が同じ比率になればいいので、X=12.92…となり、平均13本ヒットを打たれることになる。これだけ打たれると失点も球数も増えることが予想され、実際には9回を投げきることはなく降板しそうな内容だ。

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プロフィール

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  • 合同会社DELTA
  • 2011年設立。スポーツデータ分析を手がける。代表社員の岡田友輔と、協力関係を結ぶセイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。
    書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1,2,3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクスマガジン1,2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta's Weekly Report』などの媒体を通じ野球界への提言を行っている。
  • 最新刊『セイバーメトリクス・リポート4』を3月27日に発売。

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