第7回 打席での働きを1つの数字で表す2014年10月20日

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【目次】
[1] (結果×価値)+(結果×価値)
[2] 価値算出で力を発揮する得点期待値
[3] wOBAという指標

進塁に対する評価が足りない打率、過剰な長打率

 ただし長打率にも問題はある。単打は1ポイント、二塁打は2ポイント……という価値設定が正しいのかという部分だ。
 例えば走者が二塁にいたとする。二塁打ならばほぼ確実に1点が入る。単打でも当たりによっては1点が獲れてしまう。二塁打のほうがより確実に得点をもたらすのは間違いないが、一律に単打の2倍の価値があると設定してよいのだろうか。

 先回りして一般的な研究結果から答えを出してしまうと、NPBだとこれは少し高すぎるとされていて、シーズンにもよるが1.9倍くらいだと考えられている。三塁打は約2.6倍、本塁打は約3.2倍。
 つまり、打率では「走者を進めること」への価値の設定が低すぎたが、長打率では高すぎるのである。



 こうした設定の最適な値を探ることは、セイバーメトリクスでよく見かける研究だ。セイバーメトリクスについて調べると、特に攻撃に関する指標が山ほど出てきて辟易することがあるかもしれないが、違いはこの価値の設定の部分だけで、計算の仕組みは長打率と変わらないものも多くある。

結果の「価値」をどうやって計るか

「様々な要素を、価値に合わせた重みをつけて合算する」際、一番重要なのは、1つの結果の価値をどうやって計るかだ。

 その際よく活用されているのが得点期待値(Run Expectancy)という数字だ。この数字そのものは「アウトカウントと塁状況で場合分けした24の状況下ごとの得点の入りやすさ」を計算したものだ。

 同一リーグ内の一定の試合で、3(無死、一死、二死)×8(なし、一塁、一二塁、一三塁、二塁、二三塁、三塁、満塁)=24の状況が発生した後、得点がどれくらい生まれたかを、試合情報を追いかけて数え上げ、それを機会の数で割る。24の状況が持っている、平均的な得点が生まれる可能性を探ったものである。



「無死満塁は、点数が入りやすいのか? 入りにくいのか?」「無死一塁からの送りバントは有効か?」などの議論で見かけることが増えた数字だが、そうした端的な状況の検証よりも、得点期待値が最も有効に活用されているのが、単打や二塁打など、各種結果の価値の計測だ。

 手法の細かい説明は省略するが、状況が持っている得点発生の可能性が、単打や二塁打のような結果によってどう動かされたかを調べ、平均する。そうして結果の平均的な価値を計っていく。
 例えば無死一塁を無死一三塁にした単打があったとする。0.839点が望める状況を1.736点が望める状況に変えたとして、この単打は1.736−0.839=0.897点状況を動かしたと記録される。
 無死一三塁からまた単打が出て、1点が入って無死一二塁という状況ができたとすれば、この単打は1+1.410−1.736=0.674点状況を動かしたと記録される。

 こうした計算を全ての単打に対して行う。NPBであれば、2013年に単打は10988本生まれ、その単打によって状況は4756.0点分(返した走者+広げたチャンスの総計)動いていた。
 4756÷10988=0.4328…と計算し、単打1本当たり約0.433点分という数字が算出される。これを単打の価値に設定するのだ。

 なお、二塁打は2418本出て、1961.9点分状況を動かしている。
 1961.9÷2418=0.81137…となり、二塁打1本当たり約0.811点分の価値があると設定される。さきほど紹介した「二塁打は単打の約1.9倍の価値」という数字は、こうした手法に基づき導き出されたものである。



 得点期待値から様々な結果の価値を求め、結果(単打、二塁打…)の本数に掛け合わせた数字をもとに選手やチームを評価する手法は「ライナーウェイトシステム(Linear weight system/LWTS)」と呼ばれている。
 結果の価値を求める手法は他にもあるが、ライナーウェイトシステムは攻撃以外の指標にも幅広く活用されており、現在のセイバーメトリクスの評価体系の核と言える存在になっている。

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プロフィール

DELTA
DELTA
  • 合同会社DELTA
  • 2011年設立。スポーツデータ分析を手がける。代表社員の岡田友輔と、協力関係を結ぶセイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。
    書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1,2,3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクスマガジン1,2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta's Weekly Report』などの媒体を通じ野球界への提言を行っている。
  • 最新刊『セイバーメトリクス・リポート4』を3月27日に発売。

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