第7回 アメリカ独立リーグの現実:苦境に立たされる弱小リーグ(下)2014年02月21日
【目次】
[1]「プレー」という商品と「身近な娯楽」というキャッチコピー
[2]底辺に向かって拡大しつつあるプロ野球の裾野
[3]独立リーグ界で進む「階層化」
底辺に向かって拡大しつつあるプロ野球の裾野
日本における独立リーグの展開やオーストラリアやイタリアなど野球新興国におけるプロリーグの勃興などに象徴されるように、世界規模でのプロ野球の裾野は近年確実に広がっている。このことは、グローバルな視野に立てば、「プロ野球選手」になる機会が増大していることを示しているが、その一方で、プロ選手のプレーレベルと報酬の下限はどんどん落ちていっている。
アメリカを例にとれば、MLBとの契約を目指したものの、ドラフトからこぼれ落ち、あるいはMLB球団から解雇されたりしてMLB球団と満足な契約を結べない者たちの受け皿として1990年代半ばに独立リーグが興り、その後2000年代に隆盛を極めたが、その結果、独立リーグが「プロ野球」として認知されるようになると、今度は「とにかくプロになりたい」という若者を既存の独立リーグに送り込むための独立リーグが興った。
2007年シーズンに始まったニューヨークステート・リーグはリーグ戦の開始が7月、8月には終了するというミニ・リーグだ。設立当初は「プロ」を名乗り、大学や高校を卒業したての、プロをあきらめきれない選手を集めて、4チームによるリーグ戦をMLBや各独立リーグのスカウトの前で行った上で、リーグ戦終了後に他のリーグに選手を送り込むというモデルを打ち立てた。
8月と言えば、マイナーリーグはシーズンの終わりに入っているのだが、シーズンに入ればほとんど休みのない独立リーグでは、この時期になると故障者などが出て、それを埋めるための需要が生じる。またMLB球団も、ドラフトではリストアップされずに取り残した放り出しものをこういう短期のリーグから掘り起こそうとする。
このリーグは、翌年からプロリーグであることを止め、2チームによるスカウティング・リーグ(アマチュア選手を集めスカウトの前でリーグ戦を行うリーグ)として現在まで存続している。また2011年シーズンには、東海岸北部、ニューヨーク州からカナダをエリアとするカンナムリーグ(カナディアン・アメリカン・アソシエーション)と提携を結び、選抜チームがリーグ戦に参加するなど工夫を重ね、「プロ予備門」としてその存在価値を高めようとしている。
このような独立リーグの勃興によるプロ球団の増加は、選手側のプロ志向を高めた。その結果、現在では、プロを目指す若者から参加料を徴収し、スカウトを呼び寄せて実践を行なうスカウティング(トライアウト)・リーグが北米各地に興っている。2010年に女性ナックルボーラー・吉田 えり(独占インタビュー 2012年6月7日公開)が参加したことで有名になったアリゾナ・ウィンターリーグ(現テキサス・ウィンタリーグ)もこのようなリーグのひとつである。
しかし、このようなリーグの参加者がMLBの球団にスカウトされることはまれである。現実には、スカウトされた選手のほとんどの行き先は独立リーグである。そしていくつかのスカウティングの運営者は、既存の独立リーグとなんらかのかたちでつながっている。
つまり、これらスカウティング・リーグは、既存の独立リーグにとって、シーズンオフの収益の場として、またコストのかからないスカウティングの場として機能している。
こうなると、今度はこういうスカウティング・リーグに参加しながらも、プロ契約を果たせなかった選手を受け入れ、興行を行おうというリーグも興ってくる。つまり、「プロ野球のデフレ」が興るのである。このコラムの冒頭で風景は、そのデフレの現実と言えるだろう。

ペコスリーグ、ラスクルーセス・バッケロスの球場、この球団は2012年シーズン限りで廃し。2013年シーズンは別の独立リーグ構想に乗って復活を図ったが、リーグ自体が開幕を1年遅らせることになった。
日本でも2010年シーズン途中から関西独立リーグが選手報酬を打ち切り現在に至っているが、独立リーグ発祥の地、アメリカでも、隆盛を極める「勝ち組」リーグがある反面、「負け組」リーグでは、日本と同じような現象が起こっているのだ。
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