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第2回 プロで活躍する社会人野球戦士たち(後編)2013年07月06日
人生を変えた完全試合

"森内壽春(JR東日本東北時代)"
檜舞台の活躍で、人生を変えてしまうことがある。それは高校球児でいえば甲子園、大学野球選手権ならば大学野球選手権、社会人野球の選手ならば都市対抗になる。一つの快挙で、プロ入りの道を切り開いたのは北海道日本ハムファイターズに在籍する森内 壽春だろう。
森内は八戸工大一高から青森大を経て、2007年にJR東日本東北に入社。入社1年目から活躍し、日本選手権に登板。攝津正(現ソフトバンク・ホークス)がプロ入りしてからはチームのエースとして活躍。2008年の第79回都市対抗野球大会にはTDKの補強選手として出場。
2009年にはチームとして第80回都市対抗野球大会出場。2010年の第81回都市対抗野球大会には日本製紙石巻の補強選手として登板した。森内は、面白い投手だ。何が面白いかというと打ちにくさを生かした投球スタイルである。
森内は攝津のような独特のテークバックから投げる投手だった。球速は140キロ前後だが、右腕と体が連動し、一気に腕が出てくるフォームから投じるためタイミングが取りづらいのだ。
日本製紙石巻の補強選手として出場した2010年の都市対抗(ヤマハ戦)では2.1回を投げて5奪三振を奪った。ただこの時、社会人4年目を終えていた森内に手を挙げる球団はなかった。そして5年目。エースとして東北予選を勝ち抜き、都市対抗出場。
この年は東日本大震災の影響で、開催が10月下旬となった第82回都市対抗野球大会。10月24日の三菱重工横浜戦。先発した森内は立ち上がりから絶好調。130キロ後半の速球、スライダー、ツーシーム、チェンジアップ。いずれも制球力が抜群で、テンポ良くストライクを積み重ねて、三菱重工横浜打線をパーフェクトに抑える。だが相手の三菱重工横浜の先発・亀川貴之もノーヒットに抑える好投。投手戦となった試合は8回裏に均衡が破れ、JR東日本東北が4点を先取した。
そして9回表、森内は最後の打者を三振にとり、完全試合を達成したのだ。視察に訪れていたスカウトは森内に目が留まる。またドラフト直前ということもあって、各球団の幹部が見ていたことも幸運だった。そして、ドラフト当日に森内を指名したのは北海道日本ハムファイターズだった。
プロ入り後、森内は1年目から中継ぎとして活躍。56試合に登板し、日本ハムの優勝に貢献した。あの完全試合が、森内の野球人生を変えたといっても過言ではないだろう。
東芝で培った積極的打撃で開花を
今年の6月、大学選手権初優勝を果たした上武大学。そのOBである安達了一は神宮大会準優勝を経験している。大学時代から大型遊撃手としてプロから注目された安達は東芝入り。都市対抗神奈川予選は重圧から6試合で打率.150と苦しんだが、第81回都市対抗野球大会で安達は大ブレーク。特にすごかったのはJR東日本戦だ。3対3の同点からレフトスタンドへ飛び込む勝ち越しホームラン。さらにタイブレークとなった10回表には、右横線へ勝ち越し適時打を決め、勝利に貢献。23打数9安打で東芝の優勝に貢献。若獅子賞、大会優秀選手を獲得したのだ。
安達は大学時代まで攻守ともにバランスがとれた遊撃手だったが、強打の東芝に入社して、さらに打撃が伸びた。打撃が伸びた要因として初球から果敢に振りに行く積極的な打撃スタイルにある。特に甘く入った球を逃さず一気に打球が伸びる長打力はプロからも注目された。ドラフト解禁年を迎えた2011年のスポニチ大会。安達はNTT西日本戦ではレフトスタンドへ3ランホームランを放ちスカウトへ大アピール。ダイナミックなプレーを見せるショート守備も魅力的で、スカウトから上位指名候補として注目される存在になる。
連覇を狙った第82回都市対抗野球大会。開幕戦となった三菱重工神戸・高砂戦。安達はセンターのフェンス際まで飛ばす大飛球を放ち、長打力の片鱗を魅せつけたが、無安打。日本生命戦でも無安打に終わり、不完全燃焼で終わった都市対抗だった。
それでも、迎えた2011年ドラフト会議。安達はオリックス・バファローズからドラフト1位指名を受ける。1年目は、即戦力の期待をかけられながらも故障に苦しみ、50試合の出場に終わったが、2年目のキャンプ直前にオリックスの正遊撃手の大引啓次が糸井嘉男とのトレードで、北海道日本ハムファイターズに電撃移籍したことで、出場機会が倍増。7月5日現在で、59試合出場し、3本塁打。既に昨年以上の出場機会を与えられている。彼が大きく脚光を浴びるのはこれからだろう。東芝時代と変わらない積極的な打撃スタイルで一流選手を目指す。
(文=河嶋 宗一)