第1回 アスレチックスは、なぜ出塁率を重視したのか2014年05月07日

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【目次】
[1] 『マネー・ボール』が変えた出塁率への評価
[2] 「得点を増やす」から出塁率は重要である / 出塁率は打者の能力以外に左右されにくい
[3] もうひとつの理由 〜年俸抑制〜 / データを見るときに意識すべきこと

2.「得点を増やす」から出塁率は重要である

 野球とは2つのチームがより多くの得点を獲ることを競い合うスポーツだ。そこに着目すると、方法はさておき、得点をつくりだせる打者こそが良い打者だということができる。
 改めて、得点をつくり出すとはどういうことだろうか。野球では出塁した走者を本塁まで進めることで得点が記録される。得点は出塁という要素と進塁という要素によってつくり出されるという見方ができる。「走者を出す力(出塁)」と「その走者を本塁に向かわせる推進力(塁打)」のコンビネーションで得点はつくられていると言えばわかりやすいだろうか。

 ここでいう出塁はヒットによるものでなくてもいい。四死球で出た走者だから得点が半分になるというようなことはないのだから、別に安打にこだわる必要もないわけだ。
 アスレチックスが出塁率の高さを重視したのは、このような考え方に基づき、それが得点をつくりだせる打者の重要な条件だと見なしたからだ。たとえヒットを打つ確率が低くても、四死球が多く出塁率が高ければ、その打者は得点をつくり出す上で有力な打者だと考えたのである。
 データを見るとき、「得点をつくり出す上で重要な能力が計測された数字なのか」というのは大事な視点だ。データが得点を獲ったり防いだりすることとどれくらい関係があるかに意識すると、選手やチームの評価を誤ることは減らせるはずだ。


3. 出塁率は打者の能力以外に左右されにくい

 出塁率が重要視される理由はこれだけではない。もうひとつの大事な理由は、出塁率が「打者の能力以外の要素に左右されにくい」指標だからだ。
 基本的に指標は、選手の何らかの能力を表そうとしてつくられる。だが、一方で選手の能力とまったく無関係な要素によっても数値は影響を受ける。

 それは、味方の選手の影響だったり、球場の影響だったり、あるいは運の影響だったりするが、いずれにせよあらゆる指標はノイズを含んでいる。

・ 打ち取った浅いフライが外野手の判断ミスのせいで安打になった
・ 他球場なら本塁打になる打球が、甲子園の広い左中間に阻まれて二塁打になった
・ ポールすれすれの大飛球が風に戻されて本塁打になった

 こうしたノイズが計算時に混入する指標は、結局のところ選手が純粋な自分の能力だけでコントロールできるものではない。ただし、このノイズの割合は指標によって異なる。打者が自身の能力でコントロールしやすい指標とそうでない指標があるのだ。

 ノイズが多いか少ないかを確かめるためによく使われるのは、次のような方法だ。
 ある一定期間に、2年続けて一定数の試合に出場した選手が記録した2つの数字(データセット)を集め、その数字の関係性を調べるのだ。
 この数字の間に、ある年の数字が大きければ翌年の数字も大きい、または小さければ小さいというような決まった関係性が全体的に見られれば、それはノイズの少ない選手の能力が表された指標である可能性が高まる。逆に関係性がうかがえない極めてランダムなものなら、それはノイズが多く混ざり込んだ指標であることが疑われる。

 この方法で調べると、出塁率は年度間の揺れが比較的小さいことがわかる。つまり、打率など他の指標に比べ混じっているノイズの割合が小さく、ある年に高い出塁率を記録した選手は、翌年以降も高い出塁率を記録する傾向が強いことを示すのである。
 このような特徴は、チームを編成する側にとって非常に魅力的だろう。もしある指標の値が年度ごとに大きく変動するものだったら、その指標を参考に選手を獲得してもどれだけ活躍してくれるかの見当がつかず、獲得するリスクが高くなってしまう。それに対し、ある年出塁率が高かった選手は、翌年も出塁率が高くなることが期待できる。獲得して大失敗するリスクは低くなるのだ。これが、アスレチックスが出塁率を重要視した2つ目の理由だと言える。

 この部分はマネー・ボールを単純化した紹介では無視されがちだが、データを見るときには重要なポイントだ。指標の数字が年度間で決まった関係性がどの程度あるか、これは「年度間相関があるか」「再現性があるか」などと表現されたりするが、データで誤った評価を下さないためには、この部分には特に注意したい。
 なお、指標の年度間相関については、DELTAのアナリストとしても活動する蛭川皓平氏のウェブサイトでも紹介されているので、興味のある人はぜひご一読を。


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プロフィール

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  • 合同会社DELTA
  • 2011年設立。スポーツデータ分析を手がける。代表社員の岡田友輔と、協力関係を結ぶセイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。
    書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1,2,3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクスマガジン1,2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta's Weekly Report』などの媒体を通じ野球界への提言を行っている。
  • 最新刊『セイバーメトリクス・リポート4』を3月27日に発売。

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