第6回 成績の平均値を考慮すると見えてくるもの2014年09月09日

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守備位置の違う選手の成績を比較する

「平均を意識して数字を見る」という姿勢は、データを扱う際の基本と言える。指標の説明文などで「リーグの平均的な選手と比べ、どれだけ○○○したかを表す数字」といったものを見かけるセイバーメトリクスの世界でも常に意識されている。

 その大切さをシーズン間の成績の比較を例に紹介してきたが、もう1つ「守備位置の違う選手の成績の比較」という例も紹介しておこう。

 野球には野手が守る8つのポジションがあり、それぞれに野手を配置し守らせている。ポジションごとに守備の難易度の差があり、難しいポジションは出場可能な選手が少なく、選択肢は狭まる。逆に易しいポジションは選択肢が増える。
その結果、攻撃に関する成績の平均値は、「難しいポジションを守っている選手」と「易しいポジションを守っている選手」との間で差が出る。



 グラフの実線は、それぞれのポジションを守った選手が記録したweighted On Base Average(wOBA)という指標の平均値を出したものだ。wOBAは、出塁力と長打力、双方を加味した攻撃の総合指標で、精密なOPSのようなものだと考えてもらいたい。

 両リーグとも捕手の平均値が低く、内野では一塁手と三塁手が二塁手や遊撃手に比べ高い。外野はセとパで傾向が違うが、パでは軒並み内野を上回っている。

 首位打者争いや本塁打王争いに加わるのは、一塁手や三塁手、外野手、またここでは紹介していないがDHの選手が多い。二塁手や遊撃手が登場することはあまりないが、その事情はこうした数字からもうかがえる。

 しかし、「3割30本」のような、タイトルに絡むような記録を残せなくても、そのポジションの中でしっかり抜きん出て平均を上回っていく成績を残していれば、それは高く評価するべき、という見方もできる。
 表面上の長打率はかなり差がありながら、平均を考慮した結果、近いレベルの評価となった阿部とバースの長打率のケースのようにである。「難しいポジションを守っている選手が残した記録」は「打者に厳しいシーズンに残された記録」だと考えることもできるのだ。

 ここではヤクルトの二塁手・山田 哲人と左翼手・バレンティンを比べてみよう。
表面上、山田はwOBAで.434、バレンティンはそれを大きく上回り.495という記録を残している。山田が打撃で頑張っているとはいえ、バレンティンに及ぶものではない、という印象を受ける。

 しかし、二塁手と左翼手では、そのポジションを守る選手が記録するwOBAの平均値が違う。二塁は.342、左翼は.385と.043もの差がある。

 山田と二塁手全体の平均と差分は.092。平均の何倍かを求めれば約1.27倍となる。一方バレンティンと左翼手全体の平均との差分は.110。平均の何倍かを求めれば約1.29倍だ。

 直接比較では大きく水を空けられて見えた山田だが、ポジション平均を考慮した評価では、差はかなり縮まることがわかるだろう。

生の数字は受け入れやすいが

 スコアブックなどに記されるような、「誰が」「何をした」かがそのまま集計されるような数字は意味が理解しやすく、受け入れやすい。
 それに対し、数字を集め計算を重ねた数字は、どこかぼんやりしてしまい、実感は失われやすい。だが、そうした数字でなければ確かめられない事実というものもある。

 野球を楽しんで観る上では、細かな計算を逐一行う必要はない。だが、「記録とは時代や環境、背景によって、その意味は大きく変わる」「素晴らしい選手と見なされる基準も変化する」ということだけは覚えておくと、選手の正しい評価に近づけるだろう。

(文=市川博久+DELTA


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プロフィール

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  • 合同会社DELTA
  • 2011年設立。スポーツデータ分析を手がける。代表社員の岡田友輔と、協力関係を結ぶセイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。
    書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1,2,3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクスマガジン1,2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta's Weekly Report』などの媒体を通じ野球界への提言を行っている。
  • 最新刊『セイバーメトリクス・リポート4』を3月27日に発売。

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