四国アイランドリーグを100倍楽しむコラム

印刷する このエントリーをはてなブックマークに追加   

第1回 地域密着の徹底を模索する四国アイランドリーグplus2013年08月31日

【目次】
[1]独立リーグの未来
[2]地域密着の徹底を模索する四国アイランドリーグplus

独立リーグの未来

高知県黒潮町大方の試合会場。ファンが待っている限り独立リーグはどこでへも試合に出向く

 「いったい、どこで試合やるんだ」

この日(7月21日)、試合会場に足を運んだ率直な感想である。
高知県黒潮町大方。松林の向こうはもう海という海辺にある野球場は、かつて南海ホークスがキャンプを張ったこともある由緒正しい球場である。しかし、球界のイノベーションが進んだ現在、この球場を選手の鍛錬の場に選ぶ球団は、世界中どこのトップリーグを探してもないだろう。スタンドもなければ、外野のラバーもない。芝は内野の黒土との間に愛想程度に生えているだけで、外野は数百メートル離れた浜と同じ砂地である。

そんな、スタジアムとはとても呼べない野球場で現在もシーズン前のキャンプを張り、公式戦も開催する球団がある。四国アイランドリーグplus(以下アイランドリーグ)・高知ファイティンドッグス(以下高知FD)がそれだ。

「ここじゃ入場料取れないでしょ」
と球団スタッフが言うように、この浜を掘り下げただけの球場は、周囲どこからでもフィールドを望むことができる。加えて、真夏のデーゲーム。ここで観客から入場料を徴収することは難しい。

ここで木戸銭を取って野球興行を行なおうとすれば、フィールドの周囲に柵を立て、それに目張りをせねばならない。
「それに70万円かかるらしいです。だったらその費用をウチにくれと。だから興行を買い取ってもらいました」

現在、高知FDが行なう地方ゲーム(高知市内の球場以外で開催される試合)のほとんどが自治体にその興行権を買い上げてもらう形で実施されている。つまり、観客は無料で試合を観戦することができるのだ。
大方の場合、老朽化した球場をなんとか活用し、リノベーションを進めたい自治体と、ファンの裾野の拡大と試合の入場料収入を増やしたい球団の利害が一致して興業の買い取りという方法論が浮かび上がったと言える。
「ここでデーゲームやって入場料を取ろうとしたら、客なんて来ませんよ。だったら有料試合を開催する設備を整える費用で、試合自体を買ってもらおうと。無料試合にすることで、数百人でも観客が入れば、飲食やグッズの売り上げも出て来るでしょう」

 高知FDは、メイン球場である高知市営球場にナイター照明がなかった(2012年シーズンから設置)という不利な興行条件もあり、2007年に球団消滅の危機を迎える。これを救ったのが高知出身の実業家北古味鈴太郎である。北古味は私財を投じて球団を買収し、経営の立て直しに臨んだ。

チームのホームタウンを、県都高知市から車で1時間ほどの過疎化に悩む佐川町と隣接する越知町に移した。選手寮を佐川町から、練習グラウンドを越知町から提供を受けたのだ。これにより球団の運営費を大幅に削減することに成功した。越知町のグラウンドは、野球場というより多目的グラウンドに近いが、高知FDはここでも公式戦を実施している。今年実施の2試合は、地元企業に買い上げてもらいホームタウンの住民へのプレゼントという形で行う。つまり高知球団は、観客にチケットを売るのではなく、地域貢献の名の下、試合そのものを地元企業に売るという新たな興行のありかたを模索している。

 現在において、観客から木戸銭を取るというだけではプロスポーツは成り立たなくなっている。その懐具合によるが、各国のトップリーグは国境を越えてトップ選手を集めるようになり、莫大な人件費がかかる一方、チケット収入以外に、放送権料、スポンサー収入、マーチャンダイズなどでそれを回収するビジネスモデルを模索している。

 そのようなメガ・スポーツビジネスが肥大化する一方で、小規模のプロスポーツが世界各地に興っている。
野球で言えば、MLBの国際化戦略が本格化した1990年代以降、中南米カリブ地域やオーストラリア、イタリアなどでプロリーグが再興、発足したり、アメリカや日本などの、すでにプロリーグの存在していた地域でも、独立リーグという新興プロ野球が勃興している。

これはグローバル化の進展により、野球の世界でMLBを頂点とするスカウティング、マーケティングのネットワークが形成されるようになった結果、人材育成のための競技レベルが低く、規模も小さい新興プロ野球が世界各地に興ったのだと解釈できる。つまり、独立リーグという新興プロ野球はグローバル化の所産であると言えるのだ。アメリカにおいて、この独立リーグは、1993年のノーザン、フロンティア両リーグの発足以後、興亡を繰り返しながらも現在まで続き、スポーツビジネスとしての地位を確立したと言える。
しかしながら、日本においては、いまだほとんどの球団が赤字に悩み、よく言えば発展途上にあると言える。その中、近年ではようやく黒字化を達成した球団も出始めている。

以下では、日本の独立リーグの今後を、アイランドリーグとBCリーグを例に挙げ、地域密着型ビジネスの浸透と、国際化戦略の2つの側面から見てみたい。

このページのトップへ


【次のページ】 地域密着の徹底を模索する四国アイランドリーグplus


【関連記事】
第3回 日本の独立リーグの国際化戦略を考える【独立リーグの未来】