四国アイランドリーグを100倍楽しむコラム

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第1回 地域密着の徹底を模索する四国アイランドリーグplus2013年08月31日

【目次】
[1]独立リーグの未来
[2]地域密着の徹底を模索する四国アイランドリーグplus

地域密着の徹底を模索する四国アイランドリーグplus

 2年ほど前、高知FDのホームタウン、越知での公式戦を取材した際、出会ったのが香川オリーブガイナーズ(以下香川OG)の球団代表、堀込孝二であった。通常、ビジターチームのスタッフは遠征に帯同することはないが、この日、彼がこの球場に足を運んだのは、ここでの試合開催を参考に、自球団でも同様のことができないか模索していたからだった。

「小豆島で試合ができないもんかと考えているんですよ。ここで公式戦ができるならなんとかならないかなって」

このプランはいまだに実行に移されてはいないが、四国という地にあって、各自治体のアイランドリーグに対する試合開催要望は強い。過疎化に悩む地方は、とにかく人の集まるイベントを欲しているのだ。

生名スポレク球場。要望があれば、独立リーグは離島でも試合を行なう

 この需要に応え、「県民球団」として昨年赤字を脱したのが愛媛マンダリンパイレーツ(以下愛媛MP)である。
ここも、試合会場を選ばないという点では、高知FDに負けず劣らずの球団である。今シーズンは実に13か所での公式戦をスケジュールに組み込んでいる。

このチームにフランチャイズ球場という概念はない。県都・松山には坊っちゃんスタジアムというNPBのホーム球場にしても恥ずかしくない立派なスタジアムがあるが、アメリカのチームのようにここだけをホームにするということをこの球団は考えてはいない。

日本の独立リーグは、ひとつの球場に本拠を置くのではなく、本拠を置く県全体をフランチャイズとし、県内各地で主催試合を開催することが多い。

その一番の理由は、プロアマ様々な野球団体がひしめくこの国にあって、後発の独立リーグが優先的に球場を使える環境にないことである。この状況に対し、理想を言えば本拠地球場はひとつにしたいという関係者も多い。
加えて、集客力のある大都市の球場に適当なものがないということもある。とにかくハコモノを造ろうとしたがる「土建国家」日本では、県都にある球場は軒並み万単位の収容を誇る。

年にせいぜい1,2度のNPBの試合を目論んでこのような器を、税金をつぎ込んで造るのだが、2000人も入れば「大入り」の独立リーグが使用するには、このような施設大きすぎる。自分たちの町の規模に応じたスタジアムを建て、それに見合ったチームを誘致するというアメリカ的発想は、小規模プロ野球観戦という文化がいまだ確立していない日本においては、現在のところない。

 こういう大都市の球場で試合を開催すると、数千人集めたとしても、スタンドはいかにも閑散としたさびしいものになるし、そもそもNPBの試合開催を前提にした賃貸料をペイすることもできない。愛媛MP同様、県都・新潟市にあるNPB使用のハードエコスタジアムをたびたび使用するBCL新潟アルビレックス(以下新潟ABC)も、ここでの試合開催については、他球場に比べて集客力はあるが、球場使用料を考えれば、球団のアピール意外にあまりメリットはないとする。
 愛媛球団も同様の理由から、坊っちゃんスタジアムをメイン球場としながらも、県全体をフランチャイズと位置付け、広い県内各地で公式戦を開催している。

ご当地グルメの屋台を出すなど独立リーグの経営には地域密着が欠かせない

 瀬戸内海に浮かぶ生名島という島を知っている人は少ないだろう。この島は、現在周辺町村と合併し、上島町の一部となっているが、広島県の尾道と愛媛県の今治を結ぶ「しまなみ海道」からも離れたこの島は町の活性化という課題に悩まされている。そこで、島の野球場に愛媛MPの公式戦を誘致し、これを町の活性化のきっかけにするというアイデアがもちあがった。
 野球場、といってもスタジアムといえるほどの立派なものではない。先日の大方の球場同様、もともと集客を想定したものではなく、内野を囲む形で芝生席があるだけである。ナイター設備はあるにはあるが、プロレベルの試合に耐えうるものではなく、その結果行なわれる真夏のデーゲームは正直野球をゆっくり観るような環境にはない。しかし、数百人とは言え、そこに人が集まることがこの島にとって重要なのである。

 「地方ゲーム」と言っても、地元住民だけが観戦するのではなく、実際には観客の中には遠方から来るファンもいる。コアな常連客に支えられている側面が強い独立リーグでは、熱心なファンは四国各地で行われる試合にも足を運ぶ。その数は決して多くはないかもしれないが、なかなか「よそもの」が足を運んでくれない離島にとって、アイランドリーグの試合という「ビッグ・イベント」は、島外から来る客に島をアピールする絶好の機会になっている。

 試合会場である球場は、島のスポーツ総合施設、「いきなスポレク」の一部である(いきなスポレク公園・蛙石野球場)。宿泊施設も備えたこの施設を、町では外部に貸し出すことによって収益を得ようとしようと考えているのだが、そのためには広くこの施設の存在が認知される必要がある。アイランドリーグの公式戦開催はこの広報の絶好のツールになるのである。

 愛媛球団の地方ゲームの試合会場には、必ずと言っていいほど、地元グルメの屋台が出る。これによりスタジアムに足を運んだ観客はその土地の産物にふれることができるのだ。この生名での試合でも、地元特産のレモンの加工品の屋台が出ていたが、店員は、製品の広報の一環として、独立リーグの試合会場での出店は有効な手段であると語っていた。
 つまり、愛媛MPは県内各地で公式戦を開催することにより、地元とウィン・ウィンの関係を構築していったのだ。このことが評価され、球団は県内各自治体から出資を受けることに成功し、名実とも「県民球団」となった。そして、昨年決算において、ついにアイランドリーグ2球団目の黒字化を達成した。

(文・阿佐 智)

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