日本の独立リーグの国際化戦略を考える

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第3回 日本の独立リーグの国際化戦略を考える2013年10月30日

【目次】
[1]国際化戦略の先導を切る、今季日本一に輝いた石川ミリオンスターズ
[2]独立リーグの未来とは?

独立リーグの未来とは?

 そこで新たに出てきたアイデアが、他リーグとの交流戦である。同一リーグでの地区制では、他地区との対戦は同一地区ほどではないにしろ、ある程度の数はこなさねばならない。しかし、他リーグとの交流戦では、この試合数を大幅に減らすことができる。

新潟アルビレックスBC ミッチ・デニング選手
(シドニー・ブルーソックス時代)

 2013年シーズンでは、旧ノースアメリカンリーグのハワイ、カリフォルニア地区を受け継ぐ形で発足したパシフィック・アソシエーションのうち、ハワイの2球団が日本のBCリーグと、カリフォルニアの2球団がアリゾナのフリーダムプロリーグ、それに近隣のセミプロリーグの2球団との交流戦を公式戦に組み入れている(但し6月に行なわれた石川、信濃両球団のハワイ遠征については、パシフィック・アソシエーション側は公式戦扱いとしたが、BCリーグ側はエキシビジョン扱いとした)。また、球団数が奇数で、ともに対戦相手がいないチームの出てくるアメリカン・アソシエーションとカンナムリーグの両リーグも交流戦を行なうことで、スケジュール編成上の難点を解消している。

 このような状況を見てみると、BCLの国際交流戦はアメリカの潮流に乗ったものであるとも言える。実は、太平洋をまたいだ形での独立リーグの交流はこれが最初ではない。2006年秋に強豪セントポール・セインツ(アメリカン・アソシエーション)がジャパンツアーを実施した際、アイランドリーグの徳島インディゴソックスと2試合を行ったのが最初である。その後、2012年に石川MSが、7月にハワイ遠征、9月にホームゲームを行なうというかたちで、マウイ・イカイカ(ノースアメリカン・リーグ/当時)と計4試合のエキシビジョンを行なった。今シーズンの国際公式戦はこの交流戦の発展形であると言えるだろう。  

 これに加えて、BCリーグはコロンビアのウィンターリーグと提携し、選手の派遣交流も行なっている。独立リーガーの悩みは、オフシーズンの練習場所と収入の確保である。日本のオフシーズンに冬季プロリーグでプレーすることができれば、この問題は一気に解決する。ラテンアメリカのウィンターリーグと言えば、メジャーリーガーも参加するハイレベルのものを連想するだろうが、近年ではコロンビアやニカラグア、パナマにも新興リーグが起こっている。さらにはメキシコには、カリビアンシリーズの出場権をもつメキシカン・パシフィック・リーグの他、複数の冬季マイナーリーグが存在する。これらのリーグのプレーレベルはアメリカの2A級以下で、日本の独立リーガーの修行の場としては適当なものと言える。

 石川MSが開拓したルートを元に2011年オフシーズンから始まったこの試みは、昨年は新たにオーストラリアも行き先として加わった。この結果、昨年は石川MSが2人のコロンビア人選手を獲得、新潟ABCもさきに述べたデニングのほか、オーストラリア人投手スティーブン・チャンパスを練習生として受け入れるなど、独立リーグ主導の太平洋をまたいだ選手の移動の波が興りつつある。この波はさらに拡大し、独立リーガーたちの本来の目標である上位リーグへの上昇移動となってあらわれた。オーストラリア・ウィンターリーグでプレーした新潟ABCの日米ハーフの剛腕投手、ロバート・ブースが、今年初めて実施した台湾キャンプで現地球団のスカウトの目にとまり、強豪ラミゴ・モンキーズに入団したのだ(シーズン途中で自由契約、現在は新潟ABCに復帰)。

石川ミリオンスターズ 木田優夫 選手

 今シーズン、3人の元メジャーリーガーがBCリーグのロースターに名を連ねているが(木田優夫/石川、大家友和/富山、大塚晶文/信濃)、世界の頂点でプレーした経験のある彼らがここを再挑戦の場に選んだのも、このようなリーグの姿勢とも無関係ではないだろう。

 このBCリーグの国際化戦略は、スポンサー収入の増加という営業面での成果も挙げている。昨年実施された、独立リーグ日米交流戦のプログラムには「環太平洋リーグ」の文言がある。太平洋をまたいだ各国リーグと日本の独立リーグの交流の拡大が、この壮大な夢として結実するのは、遠い先のことのように思われるが、現実に「カリビアンシリーズ未満」のラテンアメリカ4カ国のウィンターリーグ(ニカラグア、コロンビア、パナマ、メキシコ・ベラクルスリーグ)によって昨シーズンから「ラテンアメリカシリーズ」が開始されている。この「ラテンアメリカ独立リーグチャンピオン」と日米の独立リーグチャンピオンが相まみえる日が来ることはそう遠くないのかもしれない。
  また、このようなリーグには、野球途上国の選手も多数挑戦している。今年春のWBC、その前年の予選においては、各国代表選手の中に多くの独立リーガーが含まれていた。近未来のWBCには独立リーグの存在は欠かせないものになるであろう。

 再び高知に話を戻す。
 2011年に黒字化を達成した高知球団だが、昨年は60万円の赤字決算に終わった。
「一度黒字になったからって、油断はできないですよ。独立リーグというビジネスはまだ発展途上。これでいいという答えはないんです。次々に新しいことを考えていかないと、すぐにポシャってしまいますよ」
とは球団統括本部長北古味潤の弁。
「だから」北古味は続ける。
「うちは新しいことをどんどんやっていきますよ。外国人選手だって、日本人と一緒。夢を叶えようとする若者の後押しをするのに国境はありません。よそは外国人獲るの辞めちゃったけど、うちは今年、去年からいた中国人(孫一凡、日本の高校出身)にドミニカ人2人からはじめて、アフリカから練習生も受け入れました。こないだも以前カープアカデミーから派遣されていたウィル・ゲレーロも戻ってきて今ビザを待っています。そういう意味では、最先端をいっているんじゃないでしょうか」
 高知FDだけではない、ローカルからグローバルへ、そして両者の併存。地域に根付きながら、世界へと目を向ける。小規模な独立リーグならではのフレキシブルな動きに今後も目が離せない。

(文・阿佐 智)

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