第7回 アメリカ独立リーグの現実:苦境に立たされる弱小リーグ(下)2014年02月21日

【目次】
[1]「プレー」という商品と「身近な娯楽」というキャッチコピー
[2]底辺に向かって拡大しつつあるプロ野球の裾野
[3]独立リーグ界で進む「階層化」
【特別映像】アメリカ独立リーグ
後編コラムの前に、アメリカの独立リーグの球場の様子を映像にてお届けします。スタンドの観客が一体となってダンスをしたり、喜んだり。また、グラウンドの中の選手たちのプレーする様子など、ぜひ動画を通じて現地の雰囲気を体感してみてください。
(撮影・石原豊一)
「プレー」という商品と「身近な娯楽」というキャッチコピー
前編で紹介した現状は、これまで日本で報道されている「成功を収める本場の野球ビジネス」とはずいぶんかけ離れたものである。もちろん、1試合平均5000人以上の観客を設備の整った新造のボールパークに集め、MLB傘下の上位リーグにひけをとらないプレーを見せているリーグも存在する。しかし、その一方で、衆目を集めることなく消え去ってゆくリーグ、球団もアメリカでは後を絶たない。
当たり前の話だが、独立リーグという「商品」の良し悪しを決める根本は、選手たちが見せるプレーである。よりよいプレーを見せるためには、質の良い「原料」つまり選手を集めてくる必要がある。彼らはプロである以上、より多くの報酬を支払うリーグ、チームと契約する。しかし、特定のチームに好選手が集まってしまうと、リーグ戦の興味はそがれてしまう。少なくとも同一リーグの内部においては、戦力はある程度均等化されなければならない。したがって、各リーグは、プロキャリアに応じたカテゴリー分けを行い、それぞれに人数制限を設けて、加盟チームにスカウティングさせる。このカテゴリー区分は、そのまま選手への報酬に反映されるから、これによりリーグ内部においては、各球団の人件費と戦力はある程度均一化できる。
しかしこの結果、他リーグとの比較においては格差が生じることにはなってしまう。結局のところ、ビックマーケットを控えた、財政的に豊かなチームで占められるリーグのレベルは必然的に高くなるし、そうなると観客も集まり、興業的にも成功を収めることができる。その逆もしかりである。 また、レベルの高いリーグで一旦財政的に困難に陥ったチームは、選手報酬を削ることによってペナントレースでの不振を招き、結局はそのことがファン離れを起こし、ますます苦境に立たされることになる。

フォートワースキャッツの試合前の風景
ダルビッシュ 有投手が活躍するテキサスレンジャーズは、州の中心に位置するダラスとフォートワースの中間、アーリントンに本拠を置く。このメジャー球団は、両都市とその衛星都市を商圏に組み入れている。
このエリアにもマイナーのチームが2つある。ともにメジャー傘下のチームではなく独立リーグのチームなのであるが、メジャーの商圏にマイナーのチームが置かれることは珍しいことではない。「もちろん、レンジャーズも観に行くわよ。でも、それは『ときどき』のことね。私たちはもっぱらここに来るのよ。シーズンチケットも買ったわ」
フォートワースの町はずれにあるラグレイブ・フィールドの駐車場でバーベキューをしていた一団に声をかけた時のメンバーの女性の返事だ。 近年すっかりカネのかかるレジャーになってしまったメジャー観戦。50ドルのチケットに、1杯10ドル近くするビール、ホットドックを加え、お土産のグッズでも買おうものなら100ドルなど簡単に越えてしまう。実際、アカデミックな調査においても現在のメジャー観戦にはひとり1回につきこれくらいはかかるという。メジャーリーグはすっかり贅沢な娯楽となってしまったのだ。
いわば「ハレ」の娯楽であるメジャーリーグ観戦に対し、毎週末に気軽に足を運べる「ケ」のレジャーとして独立リーグが勃興してきたのはある意味必然とも言える。10ドルのチケットに、町で買うのと変わらない価格のフードにドリンク。スタンドも小さいので子供を遊ばせておいても見失う心配もない。

ラグレイブフィールド(フォートワース,ユナイテッドリーグ)
このチーム自体の人気は決して悪くはない。2013年シーズンも40の主催ゲームで計9万人超、1試合平均2251人を集めている。この数字は現在の独立リーグ全体としても平均以上と言える。MLB傘下のマイナーに当てはめると、アドバンスA級相当ということになる。
MLB傘下のチームでもプレーしていたという選手の話ではプレーレベルもほぼこのクラスであるらしいことを考えると、ビジネスとして十分に採算ベースに乗っていると思われる。
しかし、リーグ戦を展開するとなると、他のチームの安定的存続が欠かせない。その点において、人口希薄地域でもあり、それなりの規模の集客をのぞめる都市はすでに2A級テキサス・リーグに抑えられているこの地域での独立リーグ展開という状況下に身を置かざるをえないフォートワースは不幸であったと言える。
球団発足当初に加盟していた、ジョージアからテキサスに展開されたオールアメリカン・アソシエーションは、たった1年で解散。翌シーズンは1994年から継続してテキサス、ルイジアナ州に根を張っていたセントラル・リーグに移籍し、2005年には初優勝を遂げるが、皮肉なことにこのシーズンをもってリーグが休止する羽目になった。それでも翌2006年シーズンはこの年から活動を開始したアメリカン・アソシエーションに加盟、ここでも連続優勝を果たし、球団としては3連覇を遂げる。
しかし、元メジャーリーガーやWBC各国代表選手も多く抱えるこのリーグのサラリーキャップはこの球団の財政を圧迫したようである。アメリカン・アソシエーションの1試合平均の入場者数は3000人を越える。つまりこのリーグでの球団経営にはこのくらいの入場者が必要なのだが、4100席の本拠・ラグレイブ・フィールドでは、年間トータルでこの数字を出すことは困難だった。
結局、フォートワース・キャッツは、2012年シーズンを前に「負け組」のノースアメリカン・リーグに移籍した。このリーグの南地区は、先述のとおり、セントラル・リーグの後継としてテキサス地区に2006年から展開されていたユナイテッド・リーグが母体となっており、地区を越えた交流戦のほとんどないこのリーグであれば、フォートワース球団がアメリカン・アソシエーション時代に抱えていた、長距離の遠征の多さという問題が解決されるとみられた。しかし、結局このリーグもこの年限りで休止してしまい、現在フォートワースは新生ユナイテッド・リーグの看板チームとして活動を続けている。
メジャー傘下のチームだった歴史を踏襲し、旧球場と同じ位置に復興されたスタジアムに本拠を置き、ニックネームの「キャッツ」をそのまま使用、そしてかつての親球団のドジャーブルーをチームカラーとするなどの工夫が受け入れられて、ラグレイブ・フィールドは連日の賑わいを見せている。しかし、加盟するユナイテッド・リーグは、財政基盤の弱い球団の集まりで、選手の報酬も大半が月給1000ドル以下とあってゲーム自体の魅力にも乏しく、リーグ全体では1試合平均1200人ほどの動員力しかない。フランチャイズもフォートワース以外は「陸の孤島」とでもいうべき僻地に位置しており、私が取材した日の対戦相手であるコルツのホームタウン、サンアンジェロなどは現在では長距離バスも通っていない。このようなフランチャイズ展開ではファンの獲得も容易ではなく、今シーズンも1994年のテキサスルイジアナ・リーグ以来の名門であったアレキサンドリア・エーセズが、主催23試合で計7660人(1試合平均333人)という数字を残してシーズン半ばで活動を休止した。
安定した経営もあってレギュラーシーズンを1位で通過したフォートワースは、2位のエディングバーグ・ロードランナーズに2勝3敗で敗れたものの、プレーオフのすべての試合を主催し、連日多くの観衆をラグレイブ・フィールドに集めた。しかし、ユナイテッド・リーグの現状を眺めると、このチームが来年もこのリーグの一員としてこの球場に帰ってくる保障はない。
こうしてみると、いくら小規模のリーグであっても、1試合平均最低1000人の観客動員は、必要であろう。この数字は、日本の独立リーグに対しても大きな示唆を与えるのではなかろうか。
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